さよなら回転体

僕は焦っていた。前夜祭で薄々感づいていたその懸念は現実感を持って僕に襲いかかってきた。
新作で実装されたアクションであるイカロールやイカノボリがそれを粉々に砕くのは明白だった。
それはなにか。Splatoon2で見つけた大切なものだ。

前作の自分の総括

Splatoon2には多数のブキが実装されている。その中で最も僕の手に馴染んだのはハイドラントというブキだ。このブキの特徴は「事前動作のために無防備な体を長時間晒す事による極大なリスクと引き換えに、強力な継続DPSと長射程を発揮する」というものである。インクに身を隠し相手に接近し、ファイトをする一般的な射撃ブキと異なり、本来アンチパターンである「直立して姿を晒すこと」を操作に織り込んでおり、それによる(単純な撃ち合いでない)読み合いやフェイントなどの深い戦術が発生するのが良かった。

否、それらが好みだったとか手に馴染んだというのは嘘だ。僕はその前身に当たる初代Splatoonをプレイしており、そこで抱えてしまった致命的な弱点を克服するために、本来馴染まなかったブキを手に取り、気の遠くなるような時間と血のにじむような苦しい努力を重ねて、ようやく戦えるようになっただけだ。

そして話は初代に戻る

初代Splatoonでは、時間はかかったもののウデマエをS+に上げることができた。その時使っていたブキは主に短射程のシューター種であり(例外はあるが、それもノヴァブラスターなどの短いブラスターである)射程が短いブキしか持てなかった僕は、ゲームプレイを重ねるにつれて「視界の中で戦おうとし、全体状況を俯瞰しない」という癖を自分の中に作り込んでいた。初代をプレイしていた人は分かるかもしれないが、そんなプレイスタイルでもフィジカル次第で単騎駆けによる解決が出来るゲームだったのだ。

次にリリースされたSplatoon2は全体的なゲームデザインがMOBAに近づき、単騎での戦いがそこまで強い動きでなくなった。凝り固まった悪癖は致命的な弱点として露出する。スプラシューターを持って突撃しても試合に勝てない、ジェットパックが初代スーパーショットのように強烈な打開手段にならない…

この頃、仲間内では「このゲームは違うゲームになったので、僕らはこの初代Splatoonという呪いを解呪せねばならない」としきりに言い合っていた記憶がある。口ではそう言っていたものの、その裏で他でもない僕自身がSplatoonの呪いについて大変に悩んでいたのだ。

ハイドラとの出会い

Splatoon2のリリース直後「インファイトでは(特に若者相手には)勝てなくなるし、その場で勝ったとしても試合結果への影響力は小さいだろうから、僕らはもっと老獪な動きを学ぶ必要がある」と言った記憶もある。自身の悩みの裏返しだったのだと思う。

解決の糸口がわからないままチャージャーを試しても、いざ対人前提となると練習もままならず(シューター同士で勝てなくなるのにチャージャーを持っては当然勝負になるはずがない)そのたびに「勝つためにシューターに逃げる」ことを繰り返していた。

そんな中、ゲームのアップデートによりクーゲルシュライバーが実装され、一時的にとんでもない強さを発揮したあと、環境調整名目でナーフされていった。この流れの中でクーゲルを試しに持ってみて、クーゲルのナーフ後にハイドラントカスタムを触ってみて、これなら練習できそうだと思った。

解呪の流れ

ハイドラントカスタムは、その強力なメイン射撃の性能に、サブとしてトラップ、スペシャルとしてアーマーが備わり、支援や防衛の色を出したバリアントである。支援に寄せた味付けは、直接的な干渉を困難にし、試合コントロールと縁遠い安易なインファイトに逃げがちな僕の足を縛った。大きな特徴である長射程は、使い手である僕の目線や索敵範囲を遠くに誘導した。広がった視野は味方や相手の侵入ルートに向き、常に試合全体を俯瞰して、問題を見つけ、打てる手を考え続ける習慣を作り上げた。

もちろんこの積み重ねは順調に進んだわけではない。塗りやインファイトなどの直接的な貢献が難しい以上、苦しい思いや歯痒い思いをしたことは星の数ほどもある。同マッチの仲間にもたくさん迷惑をかけたに違いない。

それでもこの経験は無駄ではなかった。今ではイカニンジャで詰めてきた相手とのインファイトでさえ、ルート読みと事前のトラップ設置、DPSに支えられた最低限のチャージ射撃であしらうことが出来るようになった。

このブキの極めて極端な特性が解呪に多大な貢献をしてくれたことは言うまでもない。

最新作の発売に寄せて

そして、Splatoon3が発売された。スピナー種の「直立してチャージをし、そのまま射撃しきる」という基本特性は、新たに実装されたイカロールやイカノボリといったアクションと両立できない。当然ハイドラントもスピナー種だ。メイン射撃の強みはそのままだったが、ここで見事に「Splatoon2に取り残されたブキ」になってしまった。

限られた会敵時間の中で倒せていた相手も、数発をイカロールで防がれて撃ち漏らしてしまうだろう。スメーシーの回転壁を登ってくるイカを最低射撃数で撃ち落とせたところも、イカノボリで逆転されてしまうだろう。イカニンジャで近接してくる見えない相手を読みだけで撃ち抜けていた?最低チャージ弾数のうち一発でも防がれたら?

今はみんなが新アクションに慣れていない(つまり、Splatoon3というゲームの中でSplatoon2を遊んでいる)ので、慣れ親しんだハイドラントが強いのは当たり前だ。しかし、この状況は時間とともに変化し、ハイドラントは確実に終わる。

永訣の朝

僕は焦っていた。前夜祭で薄々感づいていたその懸念は現実感を持って僕に襲いかかってきた。
新作で実装されたアクションであるイカロールやイカノボリが、これまでの積み重ねを粉々に砕くのは明白だった。

まだハイドラントはその輝きを失っていない。
ただ、Splatoon3というゲームをSplatoon3として続けていくのであれば、また僕は変わらなければならないのだろう。
でも、Splatoon2を楽しもうとする僕に最後まで寄り添ってくれたこのブキは、きっと呪いにはならないだろう。

僕はハイドラントを卒業しなければならない。けれど、忘れたり捨てたりせず、奥底にしまい込んでおくくらいはいいだろう……

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